発達障害はどのように診断される?(その1)

音楽やアイドルにブームがあるように、精神科疾患や障害も流行りがあります。
いや、厳密に言うと流行りではなく、ある疾患や障害の認知度が一気に高まる時期があります。
これまでの歴史でも、パーソナリティ障害が一般社会でクローズアップされた時代があり、発達障害というワードがそこかしこで聞かれる時代があり、現在は愛着障害などが高く認知されるようになってきました。

国民一人ひとりが精神疾患や精神衛生に高い関心を持つことはとても好ましいことだと思います。
一方で、広く流布された言説は、伝言ゲームのように徐々に情報の形が変わり、いつしかその本質さえ変容させてしまいます。
又聞きや噂話は都市伝説となっていく運命にあるのです。

今回は、「発達障害はどのように診断される?」をテーマに少しだけコラムにお付き合いいただきます。
少々長くなりそうなので、今回は「その1」としておきます。どのくらい続くか、今は分かりません。。。

当院でも、発達障害なのではないか?と困りごとを携え、来院される方が多くいらっしゃいます。
多くの方は、「周囲から指摘された」「昔から空気が読めない」「人の話を理解できない」「ケアレスミスが多い」などの問題を抱え、「発達障害ではないか?」と来院されます。
そして多くの方が、「発達障害の(心理)検査を受けたい」と希望されます。

先に結論から申し上げましょう。
発達障害を診断する心理検査はありません。
あれ?驚かせてしまったでしょうか、失望させてしまったでしょうか…

大丈夫です、慌てずにお読みください。
あなたがどこかで耳にした「発達障害の検査」や「検査をして発達障害かどうか調べてこい」という言葉は、すべてが出鱈目なわけではないのです。ただ、そこには見過ごせない本質的な誤りがあるのです。

そもそも病気や疾患の診断はどのように行うのでしょうか。
身体の病気であれば、問診や触診のほかに血液検査や画像検査(CTやMRIなど)などで診断がハッキリするものもあります。
しかし精神科領域の診断において最も重要な情報は、問診によって語られた患者さんの体験となります。精神科の病気を客観的な指標やデータだけで判断するのは、現時点では不可能なのです。
精神科領域でも、血液検査や画像検査などを実施することはよくあります。
これらは、精神科の病気を診断するためでなく、多くは他の病気と区別をつけること(鑑別)を目的としています。

すみません、少々回り道をしてしまいました。話を発達障害に戻しましょう。
発達障害も同様に、検査だけで診断することはできないのです。
最も重要なのは、患者さんが語る生育歴と現病歴です。
これまでどのような人生を歩んでこられたのか、いつどのような経緯から困りごとが出現し始めたのか、です。

あれ?では心理検査をする意味ってないんじゃないの?と思われるかもしれません。
厳密に言えば、発達障害の診断に心理検査は必須ではありません。
問診では拾いきれない情報を得られるため、診断補助という位置づけになります。
ではなぜ、「発達障害の検査」なる言説が広まっているのでしょうか。

それは、心理検査が診断目的に用いられるのではなく、今後の支援を考えるうえで意義があるためです。

例えばある人が「うつ病」と診断されたとしましょう。
主な治療は(もちろんケースバイケースですが)、休息と薬物療法となります。
「統合失調症」の場合はどうでしょうか。
状態にもよりますが、薬物療法を中心に環境の調整が第一選択となりそうです。
では「発達障害」の場合はどうでしょうか?
コミュニケーションがうまくなる薬はあるでしょうか。空気を読めるようになる薬はあるでしょうか。

病気や疾患において大切なのは、診断名がつくことではなく、その後の治療や対処のはずです。
診断名が付いた後の、問題への対処。ここに心理検査の意義が浮かび上がってきます。
心理検査は多種多様ですが、発達障害が疑われ患者様がご希望される場合、当院ではいくつか検査を実施いたします。それらは診断のためではなく、「得意なことや苦手なこと」(発達特性)を理解し、その得意を活かす方法を考えるための大切な資料となるのです。

下記リンクを見ていただくと、当院の心理検査ページにジャンプします。
https://www.s-mental.jp/counseling/#5
初診当日に心理検査は実施できません。検査に時間がかかるといった要因もありますが、お話してきたように精神科領域では患者さんの体験をまずお聴きすることが重要だからです。

まずはお気軽にお問い合わせください。

                                      臨床心理士 諏訪

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